国際化、海外進出と何かと国際的な活動を求められるいま。「留学」という選択も一般的になりつつある。以前であれば一部の英語が得意でお金にかなり余裕のある家庭での話だったが、今は様々な留学の種類がある。短いものや長いもの、また留学ローンや奨学金が設けられ、留学先の現地側でも海外からの留学生への奨学金が適応されるケースもある。また英語が得意な子だけのものではなくなり、逆に他の科目よりも英語は不得意という子でも留学を選択するケースが増えてきている。
その留学傾向とリンクしているかのように、現地側で問題になる事柄の色も変わってきた。十数年現地と日本で中高留学生を見続けた著者が、現在の中学高校留学の難しさについて語る。
この記事のポイント
1. 会話の壁は資格では越えられない
2. 理想と現実の違い
3. 精神的な理解力
4. まとめ:難しさは経験値+精神力へ
1. 会話の壁は資格では埋められない
留学というとまず「英語が必要」と考える。間違ってはいないが、日本人の場合「必要な英語」=「英語の資格」だと思っている事が多い。「英検何級持っていればいいですか?」「TOEICとっておいた方がいいですか?」 はじめての相談の時によく聞かれる質問だ。何にとって「いい」のかでその答えは変わってくるが、今回の「中高留学の難しさ」という点に置いて言えば、「何級だったら留学がうまくいくのか」という意味で聞いている方が多いと思う。答えは、「何級だってうまくいく人はうまくいくし、何級だってうまくいかない人はうまくいかない」だ。そんな答えを聞きたいのではないのもよくわかるが、本当にそうなのだ。
ここで言う「うまくいく」の意味は、「良い成績をおさめること」ではない。あくまでも「留学で現地生活を様々な困難を乗り越えながらも充実した留学期間を過ごし終了すること」、という意味でこの記事を読んでほしい。
弊社でお手伝いさせてもらう留学生や保護者の方には大体話している話だが、英検2級を持つ学生がうまくいかず到着後半年せずに帰国する一方、英検を一度も受けたことがなく日本での成績も平均以下の学生がたくさんの友達に囲まれ現地の生活を誰よりもエンジョイしているという現実もある。これはその二人だけの話ではなく、私はそのような学生を両方とも何人も見てきた。
留学で何が一番大切かと聞かれると「会話」(コミュニケーション) だといえる。留学は英語を勉強する授業に出るだけのものではない、日々の生活、友人関係、文化の違い、習慣の違い、課題、試験、食事、嬉しさ、苦しさ、様々な場面や感情が全て含まれて留学だ。そこに会話がなくしてうまくいくわけがない。逆に会話さえうまくいけばどんな問題でも乗り越えられる可能性が圧倒的に高くなる。
「会話」は現地では「英語」でしなければならない。しかし「英語ができる人」と「英語で会話できる人」はイコールではないのが今の日本の現状。英検2級を持っていても英検用の会話ではなく、日常的な会話ができないことが多い。文章に書かれた1つの文を英語に直すことはできるし、3択があれば選べるし、間違いがあれば直せるが、文字ではなく会話の中で急に思い立ったことをその場でとっさに言う事ができない。その場でとっさに言わない会話などほとんどない。「会話」とは「とっさ」の事なのだ。
英検2級の子は英語の知識はとてもある。基本も応用もかなりできている。しかし自分の口で言った事の無い言葉をとっさに口から出てくるものではない。どれだけ出ないかと言うと、「なぜこの場所へ行ったのですか?」これがとっさに英語では出てこない。英検2級をもっていても、だ。おそらくこれを英語で書きなさいと言われれば、さほど時間もかからず英語に直せるだろう。しかし口からとっさには出てこない。
このとっさに出てくる日常的な会話ができないのは、もちろん英検を受けた事のない子も一緒である。だから資格を持っていても持っていなくても会話ができるかどうかにさほど差はない。
ではどうやってうまくいく子とうまくいかない子との差が出るのか。会話ができるようになるにはどうすればいいのか。
それは「口から何度も声に出して言う」、それに尽きる。英検で1つ上の級とる事でも、TOEICの高得点を狙う事でもない。声に出して言う事だ。一人で何度も何度も言う。
資格はもちろんあった方が良い。基本や応用は出来ているに越したことはない。しかし留学でつまづく「会話の壁」を資格を取る事によって越えられるわけではない。何度も口に出し、録音してみたり、鏡を見て言ってみたり、そうやって何度も何度も口にした言葉だから、会話の時にはとっさに出る。そうやって何度も繰り返して口から出した言葉は、とっさの時でも会話にちゃんと自信をもって発することができる。資格の勉強をすることで基礎や応用を理解している分、繰り返し口から出した言葉を感覚的に早く習得する可能性はある。しかし繰り返し口から出さなければ資格を持っていない人と会話力はほとんど変わらない。どちらも使ったことがないのだから。
繰り返し練習し、口から声として発することも、その音を耳で聞くことも繰り返し繰り返し行う。それをしなければ留学でぶつかる会話の壁は越えられない。
私は英語で話していると「英語の会話がすごいですね」、と周りの方に言っていただくことがあるが、実は大したことはなく英語をマスターしている人には程遠い。オーストラリア人の主人は日本語を話すので英語は不要であるし、友人もほとんどが日本人だ。主人に言わせれば私の英語は間違いだらけで、よく訂正される。でもなぜこうやってたくさんの学生をサポートし時には英語で猛抗議したり現地校との多くの絆を英語で継続し維持できているのかというと、何度も繰り返し使ってきた「この業界」での英語だからだ。何年も携わってきて何度も繰り返し言葉にして乗り越えてきたこの業界だから、この業界でつかう英語が得意なのだ。別の業界になったら同じ英語でもきっとちんぷんかんぷんで、私の英語が通用するとは思えない。現に中高生ではなくはじめて小学生の業界に携わった時はとっさに出てくる言葉がなくてとても苦労した。
要するに何度も何度も繰り返し口にして耳にしてきた言葉(英語)は得意になっていくのだ。それをせずに高い資格を取ったところで急に話せるようになることはない。